あなたも疑似科学やスピリチュアルで人を騙しているかもしれない

友達と井の頭公園のベンチでダベっていたところ、マスクをかけた若い男が話しかけてきた。痛いところを「気の力」で治してくれるそうだ。ノリで施術を受けてみたが、効果はよくわからなかった。

話を聞いてみると、どうやら仏教系の新興宗教らしく、開祖様から「気の力」を貰うことができるそうだ。

「気の力」で、元気になったり、宝くじも当たるようになるとも言っていた。仏教を標榜しながらも煩悩に囚われまくりなところが大変興味深い。

 

開祖の名前を教えてくれたので、後でググってみるとなかなか酷い内容が出てきた。それは後述したいと思う。

 

 

世間には、スピリチュアルや疑似科学が蔓延している。これらで救われる人もいるのは事実だが、それ以上に、いや、それとは比較にならないくらいに被害が大きい。

宗教に近い世界に身をおいているせいか、親しい人たちが騙されていくのを見てきた。バカ高い壺を買わされたり、怪しい技術の利権を買わされたり、分派に改宗させられて金を巻き上げられたり。同じ宗教内でも騙す側の人間がいるのだから腹立たしい。

 

そういうこともあって、この1年に疑似科学に関する対策書、いわゆる「啓蒙書」を数冊読んだ。しかし、どれも科学者の視点で書かれていて、騙される人の心情を汲んでいない自己満足的な内容であった。疑似科学やスピリチュアルを信じる人に、科学的視点から書いても心に響かないのは明らかである。

科学的視点よりも先に、「自分も騙され得る」という謙遜さを身につけることのほうが大切だ。科学的視点/知識は一朝一夕で身に付けることは出来ないが、「自分も騙され得る」という意識は少しの経験や心構え次第で身につけることができるし、その意識さえ持っていたら滅多に騙されることはないからである。

 

では、どうすれば、意識を変えることが出来るか。簡単である。一度、実際に騙されてみて、騙されたのを自覚することである。問題は、「勉強代」が高すぎるということだ。お壺に数百万円を払うのはリスクが大きすぎる。

でも、ご安心を。ここに1500円(古本なら計300円)程度で解決する方法がある(一気に怪しくなったがステマではない)。「ガダラの豚」を読め(or 読ませろ)。「徹夜小説」という陳腐な表現が許されるくらいストーリーが楽しい小説だ。何よりも、この小説を読めば、頭のなかだけで騙されることを経験出来る。

 

ガダラの豚 1 (集英社文庫)

ガダラの豚 1 (集英社文庫)

ガダラの豚 2 (集英社文庫)

ガダラの豚 2 (集英社文庫)

ガダラの豚 3 (集英社文庫)

ガダラの豚 3 (集英社文庫)

 

ファンタジーであるから、当たり前のように超能力的な力を持つ人物も出てくる。一方、トリックで超能力のように見せている人物も登場する。読み続けなければ、どちらなのかは分からない。告白するのは恥ずかしいけれど、私は、騙された。

また、この小説が良いのは、騙す側のトリックを解説しているところである。あまりに単純なトリックであるのに騙されてしまったのは悔しい。が、その分、それほど簡単に自分が騙されるのだということを自覚できる。「自分も騙され得る」という謙遜さを身につけることができるのだ。

もし、あなたが自分は騙されないという自信があるのなら、なおさら読んでみたらよい。騙されなければ、それはあなたが凄いことの証明になるし、騙されれば、それもそれで素晴らしい経験になるだろう。

 

冒頭で、友達と私を仏教系の宗教に勧誘してきた若い男について述べた。「気の力」を持つ開祖様についてググってみた内容はこういうものである。これ→http://bit.ly/12oosKq これも→http://bit.ly/12zpFNH

 

要約すれば、

・入会金が140万円

・脱税で告発されている

・計100億円以上、騙し取っている疑い

・手かざしハンドパワー療法の効果は認められない

ということだ。

 

明らかに詐欺的なものである。だが、勧誘してきた若い男は、自分は洗脳されていないし、開祖は本当に凄い方なのだと言っていた。ウソを付いているだけかもしれないが、心から信じきっているようにも見えた。

騙す側が、騙している自覚がないというのはよくあることだ。募金を名目に金を盗りながら、それを「神の知恵」だと本気で言う輩もいるくらいである。そこに良心の呵責は一切ない。少しの謙遜さを失うだけで、無垢な心が凶暴化する。

もしかしたら、話しかけてきた男も純粋な動機から「伝道」したかっただけなのかもしれない。謙遜さを忘れているだけで、本当はいい人だったかもしれない。そう思うといたたまれなくなる。

 

もし、あなたが騙されたくない、人を騙したくないのなら、「自分も騙され得る」という謙遜さを身につけよう。絶対に騙されない、というほどの強靭さを僕たちは備えていないけれど、その弱さを自覚することのできる知恵を持っているのだから。

 

自戒を込めて。

 

 

 

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※写真について:一見、4枚の合成写真に見えるが、実は合成ではない1枚の写真である。簡単に人は騙される実例。人間の目を欺くのはいともたやすい。

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